華氏451度 レイ・ブラッドベリ|SF好きにはたまらない1冊

華氏451度 レイ・ブラッドベリ|SF好きにはたまらない1冊

中学生の頃、初めてレイ・ブラッドベリ小説に出会った。とはいえ、本は大嫌いだったので、図書館で読んだわけではない。

それは、朝の読み聞かせの時間だった。60代を過ぎたくらいの先生(というかおばちゃん)がいつも月曜日に校内放送で15分の読み聞かせをしてくれていたから、それで出会った。

朝は眠いから、机に突っ伏せてただ目を瞑っていることが多かった。バレないようにしていたものの、先生によく叱られたものだ。

しかし、レイ・ブラッドベリの小説がスピーカーから聞こえた時、耳を傾け、気づけば頭の中でイメージしていた。「これほどまでに面白い話がどこにあるのだろう。」と思った。毎週月曜日が来ることを本当に楽しみにしていた。これがレイ・ブラッドベリの小説と初めて出会った瞬間だ。

しかし、肝心なその小説の名前を忘れてしまった。なので、厨二病くさいその響きのおかげでかろうじて覚えていた「レイ・ブラッドベリ」という名を頼りに、片っ端から読んでみようと思った。これが、華氏451度を読んだきっかけだ。

レイ・ブラッドベリの小説の中で最も有名な華氏451度。名前はすでに聞いたことがあったから、書店で購入した。

実際は求めていた本と全く違ったが、本当に面白い本だ。当時の本がこの1冊だったとしても、レイ・ブラッドベリの全ての本を読もうと決意しただろう。僕の中ではそのくらいの衝撃作だった。

華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)


レイ・ブラッドベリ (著), 伊藤典夫 (翻訳)

ものがたりのあらすじ

そもそも、華氏451度=書物の紙が引火し、燃える温度のことを指す。このタイトルからも分かる通り全体像は「本を燃やす話」だ。

私たちが住んでいる世界の「ショウカシ」とは、すなわち「消防士」のことを指す。一方この本における未来世界の「ショウカシ」は「昇火士」で、ものを燃やす職業を指している。

主人公のモンターグはまさに「昇火士」で、仕事に誇りを持っていた。本を燃やすこと=正義ということに対してなんの疑いも持たない昇火士だった。「本は悪だから燃やさなければならない。全ての本を燃やすのが仕事だ」と強いやりがいを感じていた。

しかし、少し知的で風変わりな少女との出会い、本に自ら火をつけて燃えていく老婆との出会いをきっかけに、彼の考え方は大きく変わっていく。

彼の考え方は彼の行動にまで影響を及ぼし、ついには禁じられた行為に手を染めてしまうのである……

というのが、本作の大まかな流れである。

面白い点

この本を読んで、面白いと感じた部分が3つあった。

①:本を燃やす設定

「本を燃やすこと=正義」という理論は、私たちが生きている世界では想像もできないことだ。しかし、本書ではその理論が事細かに丁寧に解説されている。
(記載されているのは物語の中盤、100Pあたり。)

SFの魅力は「フィクションとノンフィクションのグラデーション」という話をよく聞くが、まさにその真髄が見えた気がする。

②:文章表現

昇火士(ファイアマン)もそうだが、このような言葉巧みな文章表現が物語で多数出現する。これは、ブラッドベリの功績というより、翻訳者の「伊藤典夫」の功績だろう。素材を提供したブラッドベリは石油王レベルですごいこと前提だが。

猟犬の力を溜めた巨大な影が、光の中に飛びたつ蛾のように音もなくジャンプし、

早川書房、レイ・ブラッドベリ、伊藤典夫訳『華氏451度』45

カブト虫にスーツケースを押し込むと

早川書房、レイ・ブラッドベリ、伊藤典夫訳『華氏451度』193

ところどころスズメバチとも掲揚されており、また八本脚を広げて眠る姿はまさにおぞましいロボット蜘蛛である。

早川書房、レイ・ブラッドベリ、伊藤典夫訳『華氏451度』299

レイブラッドベリは「おぞましい姿」を昆虫のように喩えている。ところどころダブルミーニングが出現するので、文章として美しい部分が多数ある。

③:緊張感

緊張感のある場面と、そうでない場面のリズムがまるで異なる。
ゆったりした場面では、本のページは少しずつ進み、緊張感のある場面では手が止まらない。実際にこの本を読んで体験してもらいたいところだ。

気になった点

実は、書評は今作がほぼ初めてである。そのため、いくつかのブログや本を参考に、書評というものを学んでみた。

その中には、華氏451度の書評ブログも含まれている。あまり他の人の意見に左右されたくなかったが、残念ながら少し見てしまった。

そのほとんどの方の書評で「前半が楽しくない」という意見があり、まさに僕も同じような感想を抱いた。前半100P程度までは話が全く入ってこず、正直読むのを諦めようかと思ったし、「そもそも小説ってそんなものだから、僕には向いていないのだ。」と自分に嫌悪感を抱いていたのだが、多くの書籍を読んでいる方でも理解に苦しむ内容だったかと、少し安心した。

おそらく、これから華氏451度を読もうと考えている人にとって、100P前後までは苦行だろう。しかし、その壁を突き抜けると一気に引き込まれ、「こんな素晴らしい小説はない」と感動するはずだ。

まとめ

本記事では、レイ・ブラッドベリの華氏451度を紹介した。僕が紹介するまでもなく有名な書籍だから、読んで全く損はない。

本を読むことが禁止された世界。私たちがその状況に立たされたらどうなるのだろうか。そういったイメージを頭に入れながら本書を読んでみると、その世界観にどっぷりと浸かれる。まだ読んだことがない人は、本書を手に取ってその壮大な世界観を肌で感じてほしい。

華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)


レイ・ブラッドベリ (著), 伊藤典夫 (翻訳)